コラム

新たな思想の福祉国家を - アビリティーズの主張1

2017年01月23日

障害者福祉に限らず、社会には様々な問題、困難、不自由、不平等、そして貧困など、救済、支援されなければならないことがたくさん存在する。福祉対策は長きにわたり、放置されてきた。国の理念、哲学が根本から見直され、大切で必要な施策がなされることを期待したい。

まずは障害者福祉の哲学の構築を
 障害者制度の改革として、まず最初に行なわれるべきことはなにか。まず国家として、国民の福祉の理念・哲学を構築し、国民に宣言することである。国家が国民をどのように、何を守るのか、それはどういう理念に基づくのかを明確にし、国民の、社会の共通認識とすることである。
 国民が事故や疾病で障害を負った時、それが一時的にせよ、継続的にせよ、その苦しみや困難をやわらげ救済されなければならない。たとえ障害を負っても、社会の裏方に置かれることなく、同じ国民として、すばらしい人生を確保できるよう国が配慮する、という福祉の理念を社会全体の思想として確立することが、まず重要である。
 現状は、障害を負った本人、その家族が、不幸をかこち、孤独な努力と我慢、諦め、忍耐、克服しなければならない状況に置かれている。殆どの人は人並みの人生は得られないと、夢も希望もなくす。適切な医療を受ける機会、教育、就労のチャンス、さまざまな社会参加の機会を失っている。例えば人によっては投票所にも行けないために、選挙権の行使もできない。国民としての権利も失う。
 疾病・事故・障害は誰にも共通に存在するリスクである。リスクが現実に発生したときでも国や社会がどのように支えるのか、社会の共通認識と具体的なプログラムを作り上げていかねばならない。そういう国家となれば、国民は強制されなくても愛国心を持つようになるだろう。

一般就労の確保、推進のための対策
 特別支援教育・高等部を卒業しても、一般企業に正規の雇用条件で就職できる人は極めて少ない。授産施設はあるものの、そこで得られるものは平均月額1万2千円程度の「工賃」である。これを国は「福祉的就労」といってきたが、実は障害者の「失業者集団」を容認しているのである。今まで国も社会もそれで良しとしてきた。本人も家族もそれで諦めていた。しかし、学校教育や職業訓練教育を改革し、障害者雇用促進法と雇用対策を全面的に見直し、労働者として社会に参加できるようにする。それは可能だ。アビリティーズはこれまで、45年間の活動を通してそれを実現してきた。
 他国の例に学べば、わが国の福祉政策には、所得保障と住宅政策が欠落している。重度で困難な障害の人が最低限の生活を確保するための所得保障はそれぞれの稼得能力が高まるまで必須である。
必要な所得保障と住宅対策
 現在の障害年金(1級)は月8万円程度、年間で約100万円。さらにわが国の福祉政策には住宅政策がない。住と食の確保が福祉の原点であるがそれが今なお、我国にはない。これでは到底、生存のための基本的な福祉システムは確立しない。
 また、障害者の稼得収入が、ある一定の額を超えると、障害年金や生活保護はゼロとなる。他の諸国のような漸減方式をとらないできた。これがまた障害当事者の前向きな意欲を失わさせる原因となっている。
 障害のある人々の多くが、できれば仕事を得、生計を立てたいと願っている。そのために必要な対策、対応に本格的に力を入れれば、いまの雇用、就労状況は大きく改善する。国はいままで本気で障害のある人々の雇用・就労に取り組んで来なかった。援助や割引といったお恵み施策であった。慈善、同情に本当は頼りたくないという想いを皆、持っている。仕事を得て納税者になることを望んでいる人は多い。
日本を新たな福祉国家へ
 障害のある人たちの生活は非常に厳しいが、日本全体が経済の低迷、失業者の増加、実質所得の低減などにより、いまや貧困が拡大している。2000年半ばにはメキシコ、トルコ、米国に次いで日本は世界4位(OECD)の貧困国となった。
 その様な状況の中で、障害者の権利の回復、差別の禁止、雇用・就労の推進、所得保障といった運動展開を理解できない人が、残念ながら少なくない。なぜなら、障害のある人たちが、人権において、また経済的にもどれほど虐げられてきたかを、具体的に知らない国民が圧倒的だからである。「大変なのは障害者だけではない、権利を主張しすぎるな」という人もいる。障害のある人がどれほど困難な状態にあるかを社会全体に理解されるようアピールすることも必要だ。
 60、70歳代で脳卒中やその他の疾病、あるいは事故で重度の障害者となり、その後の人生を困難の中で送らねばならない中途障害の人が、障害者全体の半数もいる。障害を受けるリスク、それは全国民共通の問題である。これを救済することが社会保障だという考え方を国民、社会のコンセンサスとして確立しなければ、と思う。
 障害者制度改革、国連の権利条約、障害者差別禁止法の制定、その改革検討のプロセスにおいて、障害当事者が検討の中心に入ることが大事だが、当事者以外の多くの分野の人々の参画を得て制度を構築していく手法も大切だ。議論を重ね、それを通して国民のコンセンサスとして確立していくプロセスが、社会の正しい理念の創成を可能にする。問題状況にある人を思いやる心、新たな社会福祉の思想を日本に創りたい。国民の福祉を大切に考え、その実現に向けて行動する国家、それこそがこれから我々が作る21世紀の日本国である。
(2010年1月 アビリティーズ紙156号より転載)