コラム

維持期のリハビリは必須 2 - 弱者を切り捨てる悲しい国家

2017年01月16日

「リハビリ日数制限」は重度障害者を切り捨てた

 2006年の診療報酬改定で「リハビリ日数制限」が導入され維持期の患者・障害者は実質リハビリを受けられなくなった。そのため心身の維持、回復の訓練ができずに機能低下、生活自立度の低下、結果として社会参加の機会を失った人が多い。

維持期、慢性期を含めリハビリ全体の制度再構築が必要だ。

この主題について、2回に分けてコラムを掲載します。(この記事は、2009年9月 アビリティーズ紙153号に掲載されました。)

弱者を切り捨てる悲しい国家

 私は1歳でポリオになった。父は28歳で満州に召集され、終戦後は3年もソ連の奥深くに抑留された。シベリア鉄道建設の過酷な労働、酷寒と食料もない捕虜生活。たくさんの人が死んでいく中、死の一歩手前で生還した。捕虜生活中は当然、音信不通。父は通算5年余を経て送還、帰国後に、私が1才で障害児となったことを知る。それは父が召集されてすぐの時であったから尚のことショックだったと父は後年語った。その衝撃は一瞬だが両親の苦労は一生続いた。入学拒否寸前の体験は二度。小学校と高校入学時である。のちには就職試験を受けることを多くの会社から拒否された。

 私だけでなく両親、家族もまた、私の障害のために差別と闘いの人生であった。障害を負うことは当事者だけではなく家族全体に悲しみと苦痛を生涯にわたりもたらす。障害を負った国民の不幸、困難をわが国家は救うことをしない。

 私はアビリティーズ運動を起こし、「保障よりもチャンスを」をスローガンとして、障害のある人々の自立と社会参加の運動を一歩も引かず頑固に続けてきた。最大のバネは、同じ日本人であるにもかかわらず、求めずして困難な状況に陥った国民が対等に生きていくために必要な支援をすることもなく放置している、日本という国家の思想と施策に対する「怒り」であった。税は過酷に取り立てても、一時的あるいは継続的に、支援の必要な国民を救うことをしない。見て見ぬ振りをしてきた国の政治と行政の責任は重い。

 2007年末、東京・府中市に自立生活訓練センター「アビリティーズセンター」をつくり、医療保険、介護保険によらない自費による集中リハビリ事業を始めた。リハビリ専門医、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、社会福祉士などのリハビリ専門職を始め、介護福祉士、管理栄養士、スポーツトレーナー、建築士、福祉用具専門相談員等、さまざまな職種の人たちが、脳卒中などの障害を受けた人たちの自立生活を可能にすることを、できるだけ自分で生活できるような状況に回復、改善することを目的に「自立生活リハビリ訓練」を始めた。利用者の殆どが、リハビリ日数制限で病院の入院・外来を切られた人たちだ。しかしなおも心身機能の回復に一縷の希望をもってリハビリをしようとしている人たちである。

 リハビリ専門医でさえ、発症後2年も過ぎたら回復の見込みはない、と言っている。しかし、ここでは圧倒的に多くの人にそれとは違った結果が出ている。10日から1ヶ月、2ヶ月の「生活リハビリ」で心身状態が明らかに改善するケースが続出している。杖歩行もままならなかった人が歩行が結構可能になったケース、長年箸を使えずにいた人がわずかな間に箸で食事をできるようになったケース、自分で寝返りを思うようにできなかった人が体の動かし方を覚えることで自力で起き上がれるようになったケース等々、短い間にたくさんの感動的なシーンが生まれている。

 車いすが体に合っていない人が世の中にこれほどいるのかとびっくりする。フィッティングマスター(車いすやクッションの調整専門家)が車いすをチェックし、身体に合わせて調整をやり直すことで崩れている姿勢が直り、顔が上がる、そして嚥下障害も改善、水も自分で飲めなかった状態から短期間に食事を取れるようになった人も多い。

 1週間の集中リハビリの体験を通して回復の可能性に確信を持ち、当協会主催の5ヶ月後のオランダ・ベルギーツアーに参加する目標を設定し、それを5ヶ月で現実に達成するまでに回復したAさんご夫妻のケースなど、事例はたくさんあり、書きつくせないほどの感動が生まれている。

リハビリの理念と制度再構築が必要

 たしかにリハビリ専門医が言われているとおり、2年も経ったら障害は基本的には治らないのかもしれない。しかし維持的な運動機能訓練やADL(自立生活行動)訓練などを行なうことで、心身機能を保ち自立生活をより高いレベルで確保することができるのは明らかに可能だ。アビリティーズセンターで、利用者の方々が身をもってそれを証明している。

 発症して180日どころか、2年、3年を経過しても、やりようによっては心身機能が回復し、生活が変わる。からだや心が傷ついても、希望を取り戻して生き続けることの意味、意義を再びつかむことのできた人たちがたくさんいる。リハビリ医療、障害者への支援のあり方、社会参加の促進、職場復帰に向けて効果ある政策、制度を再構築することが必要だ。

 多田富雄先生の悲痛な叫びに同感、共鳴した人々は多い。その証が48万人もの署名である。しかし、それは2006年の制度改定によって生じた問題の核心を軌道修正するところまでの力にはならなかった。これで終わらせてはならない。

 繰り返すが、国家は国民を等しく守ることが最大の使命である。そのような国家を作り発展させることが国民の義務である。そうした理念、思想を社会全体で確認し、作り上げていかなければ、この国はさらに速度を上げて滅びゆくことになるだろう。

 障害者福祉、介護保険制度を始め、社会保障が次第に切下げられていくなか、これからの日本にとって、疾病や障害、不幸な中にある国民も含め、安全、安心、幸福、生命などを大切なこととする国家の理念と行動を確立しなければならない。その機軸にたてば、リハビリ制度の再構築は重要で早急の課題である。

(2009年9月 アビリティーズ紙153号より転載)


1回目の記事 維持期のリハビリは必須 1 - 多田富雄先生の“闘争”の火を消すな