アメリカで障害児・者の オーラルヘルスケア学会 黒岩恭子ドクターと共に講演 アビリティーズ協会理事 加藤武彦

2021年01月18日

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【講演された加藤武彦先生(右)、黒岩恭子先生(左)】

1. ジョン・ケンプ氏との最初の出会い

2017年11 月、日本アビリティーズ協会の招待で、アメリカ・アビリティーズ社(ビスカルディーセンター)の現会長であるジョン・ケンプ氏が来日され、衆議院議員会館にて「ADA(障害者差別禁止法)でアメリカはどう変わったか」について講演をされました。
その講演後の夕食会に私もお招きいただき、鳩山由紀夫元首相をはじめ国会議員の方々と日本の差別解消法の現状について障害当事者からの意見をお話ししておりました。
その会でケンプ氏が、金属義手の両手でワインをお飲みになる姿を拝見し「本当に上手にお飲みになりますね」と話しかけたのが最初の出会いです。ケンプ氏は「僕の腕は握手するには不自由だけどスマートフォンやパソコンを使うには不自由しません」とにこやかに言われました。伊東会長が「ドクター加藤は高齢者や障害のある人たちのための訪問歯科診療のパイオニアでありリーダーです」とご紹介くださいました。

2. フィラデルフィアでのオーラルヘルスケア大会に参加

その時のご縁で、アメリカのフィラデルフィアで障害者の歯科医療をテーマの大会が開催される、ついては日本から参加をと、依頼がありました。私の専門分野はどちらかというと、高齢者への訪問診療により『噛める義歯・食べられる喜び』を患者さんに提供することですので、障害者歯科におけるオーラルヘルスというテーマであることから私の仲間でもある黒岩恭子先生にもメンバーに加わっていただきました。

加藤先生記事 ジョンケンプ氏.jpgいよいよフィラデルフィアのペンシルバニア大学での大会です。まずは、主催者のジョン・ケンプ氏が障害者の口腔のケアの大切さを話され、続いて、ニューヨーク(NY)大学の教授が大学教育における障害者治療についての発表をされました。インプラントなど人気の学科には多くの歯科医が集まるが、残念ながら障害者歯科には優秀な先生が集まりにくい現状を話されました。また、患者の家族が演台に立ち、メディケアによる医療施設の少なさを涙ながらに訴えている場面もありました。治療のために2 時間以上かけて出かけて行っても、長時間待たされ診療時間はわずかであるという障害者医療の現実を聞きました。

私たちは「全国訪問歯科研究会」(加藤塾)のメンバーである米山先生が1997 年に発表した「口腔ケアによる肺炎の羅患率や発熱の低下」に関する論文を紹介することから、話を始めました。

日本でも脳梗塞などで入院するとIVH※・経管栄養※ で口を使わないことにより、口腔がどれだけ汚れているか、適切な口腔ケアを怠らず、義歯を用いて噛めるようにすると、どんなに元気になるかという症例をスライドで見せながら説明しました。口腔ケアを実践している施設では、誤嚥性肺炎で入院する人が少なくなっている実例も示しました。この事実は世界へ出しても価値があるものと判断したからです。

次に、黒岩先生はご自身が開発された『くるリーナブラシ』による口腔ケア、口腔リハビリ、咽頭ケアなどを講演しました。

咽頭から痰の塊が出てきた場面に「Oh ~」という感嘆の声が上がったことは忘れられません。日本は『ここまで出来ている』というメッセージが伝わったようです。
※ IVH(中心静脈栄養):体の太い血管(中心静脈)から高カロリー輸液を継続的に投与する方法。
※ 経管栄養:チューブやカテーテルなどを使い、胃や腸に必要な栄養を直接注入する方法。

3. 加藤式デンチャースペース義歯の紹介

フィラデルフィアの後、NY 大学でも公演しました。私は加藤式デンチャースペース義歯というものを開発し、高齢者が100 歳になっても食べられる義歯を目標にがんばっています。症例は100 歳の顎堤吸収※ が強い方で、上下の顎堤※ のアーチは上顎が小さく、下顎は大きいため、従来の義歯では対応できないケース、訪問診療にて加藤式デンチャースペース義歯をセットしたら、食べにくいイカの刺身なども食べられるようになったというケースを中心に報告しました。
NY 大学でも参加者全体から「Oh ~」という感嘆の声が上がり、訪問診療でそこまで出来るのかというストレートな反応でした。
※ 顎堤吸収(がくていきゅうしゅう):顎堤が、溶解され低く平らになっていくこと。
※ 顎堤(がくてい):歯が無くなって歯肉だけの部分。

4. ビスカルディーセンターへ感謝

2 つの講演終了後、ロングアイランドにあるアメリカ・アビリティーズの本部、ビスカルディセンターにご案内いただきました。
ビスカルディセンターの障害児・者の福祉サービス提供の環境の良さと、そしてそれを支えるスタッフの素晴らしさに感動しました。

5. ニューヨーク(NY)でのひととき

滞在中、観光もできました。NYのメトロポリタン・ミュージアムでは、以前から興味のあったアッシリアの獅子の石像や東南アジアの文化遺産など、体がヘトヘトになるまで見学をしました。こんなご褒美があるなんて、私の長年の夢がかなえられた一瞬でした。

夜には、タイムズスクエアビルの前を通り、摩天楼のNY を見ながら、南NY 街でイタリア料理をいただきました。1 週間足らずの短い講演ツアーでした。


加藤武彦先生
1936 年神奈川県生まれ。61 年東京歯科大学卒業、64 年横浜市港北区で加藤歯科医院開設、現在に至る。
NPO 日本アビリティーズ協会理事。
一般社団法人障害者の差別の禁止・解消を推進する全国ネットワーク理事。
全国訪問歯科研究会(加藤塾)主宰。
「食べる喜びを支える歯科医療」、「治療用義歯を応用した総義歯の臨床」など出版訪問歯科のパイオニア。

黒岩恭子先生
1944 年神奈川県生まれ。1970 年茅ヶ崎市にて村田歯科医院開設、院長、現在に至る。くるリーナブラシという口腔用具を開発し各地の病院、福祉施設で口腔咽頭ケアまで行ない、誤嚥性肺炎を激減させている。
「なぜ『黒岩恭子の口腔ケア&口腔リハビリ』は食べられる口になるのか」、「食べられる口づくり、口腔ケア&義歯」など出版。

本記事は 日本アビリティーズ協会 情報誌 No.171 より転記しました。

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