地域ケアをテーマに 2009年

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【フレンドシップ柏】

 

気まま館の課題

高齢になっても障害を負っても、地域で生活を継続できる社会をめざすべきと皆言われる。しかしなかなかそうならない。不自由になれば家から一歩も出られなくなる人も多い。生活も成り立たなくなる。介護保険サービスも届かない人がいる。高齢者がひっそりしていると、地域のほうが高齢者住民を忘れていく。そしていろんなことから隔絶されていく。

施設と在宅といった区分の考えを取り払い、ひとりの高齢者、障害のある人、何か不便や困難をかこっている人を主体にして、本人にとって必要なサービスを、住んでいる身近なところで、必要な時に、適切にタイミングよく提供できること、しかもできるだけ本人の選択により提供できるようにすることが大事なことだ。

1999(平成11)年にアビリティーズによる最初の高齢者住宅を東京・府中市につくり、その後少しずつ内容の異なるものをつくってきた。できるだけご自身の生活スタイルで過ごしてほしいと、「気まま館」と名づけた。高齢者だけで住むようなものは本来ないほうがいいものなのだ、と結論として考えるようになった。

私が気まま館に行くと、入居者の皆さんは、「食事はおいしいし、スタッフもよくしてくれる、ここはいい」と言ってくださる。でも、それがどこまで本音なのか、実は違うのではないかと思っている。

本当は皆さん、できることならご自分の家に住み続けたかったのではないか。やむを得ず、事情があって、移らざるを得ないことになった、と思う。身体が不自由になったり、家族とうまくいかなくなったり、事情はいろいろあったはずだ。誰が好んで、自分の住み慣れたところから、慣れ親しんだいろいろな思い出の家具、重宝してきたものを置いて、時にはわずらわしいこともある半ば集団生活の場へと喜んで移るだろうか。

たしかに私の母のことを思うと、この想いは間違っていないと確信できる。最初の気まま館を建設した時、両親に2、3日試しに泊まってもらった。母から特に感想がなかった。

一年後さらに工夫したものをつくり、また数日、来てもらった。やはり、喜んでもらえなかった。悪いことは取り立ててなかったようだが、ここに住む、とは言ってくれなかった。

結局、住み慣れた土地で、親しい友人たちとの付き合いを保ちながら、顔見知りの店で買い物ができ、それがたとえ介助を受けるようになっても、そこが一番いいところなのだと母を通して確信した。高齢者は感覚で生活している。どこに何を置いているか、どこに何をしまってあるか、身体の中にすべて書き込まれている。外に出れば見慣れた風景があり、隣家に咲く花も知っている。近所の幼な子が大きくなり、挨拶もろくにしなくなっても、後姿を見て安心している。やがて家から出られなくなっても、寝付くようになっても、外の物音でそれが何かわかる、そういう生活が安心なのだ。

本当に大事なことは、今まで住み慣れたご自分の家にできるだけ不便なく、長く住み続けられることだと思う。

活動の主体を地域ケアに

フレンドシップ東大和

アビリティーズの運動、活動の主体はこれから地域ケアであると考える。施設を作り施設内のサービスを利用する人たちへの仕事も大事だが、地域で生活している人たちの健康、介護、安全な生活をどう支えるかが大きなテーマになってくると考える。高齢で心身状態がいくら重篤になっても、地域の様々なことに参加し続けられることが大事だ。

交通手段もなく、近くのクリニックにも行けない、買い物にも出られない、ではなく、外出できる足回りを確保し、買い物を手伝うボランティアや仕組みを作る。それができれば、楽しいイベントにも参加できる。Quality of Life(生活の質)も確保し続けられる。食事を運んできてもらうだけではなく、親しい友人や知人が寄り集まって楽しみながら食事のできるレストランがあれば、食べることにとどまらない、楽しく、刺激的な生活をエンジョイすることができる。そこで、食事もつき、イベントも楽しめるレストラン兼コミュニティホールとして「フレンドシップ」なるものを気まま館に併設してつくり始めた。現在、東京は東大和市と府中市、千葉は柏市、神奈川は横浜市の四か所。いずれも有料老人ホームやリハビリセンターに付設されている。ホールには音響・照明設備、ステージ、ピアノなどが備え付けられている。東大和のステージは車いすの方でも上がれる電動昇降式になっている。地域に在住のプロ、セミプロなどの音楽家や舞踊家、時には噺家さんも登場する。様々な特技を持った方々が公演をしている。ディナーショーもある。昼はランチ営業があり、地域の方々が利用される。地域の学校の先生や父兄たちが会合や謝恩会の会場にも使う。毎月たくさんのイベントが行なわれている。

こうした様々な新しいことを開発し、実現していくことがアビリティーズのこれからの仕事である。継続的な地域生活を可能にするためのサービスである。福祉用具も、デイサービスも、移送サービスも、食事やイベントも、地域ケアサービスである。そうした生活を複合的に、トータルで支えるコンセプト(概念)、システム(仕組み)が、これからの福祉であり、それをもって新しいコミュニティケアを構築することだと思う。地域での人の絆を大切にした支え合い、助け合いのコミュニティをつくっていきたい。

現在の地域ケアサービス

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